どうすればボールを取り出せるのか、誰にも見当がつかなかった。その時、一人のバラモンがそこへやって来た。彼の髪は白く、顔立ちは精悍であった。手には弓を持ち、腰には矢筒を下げていた。
王子たちが何に困っているのかを察した彼は、弓に矢をつがえ、井戸の底にあるボールを狙った。そして矢を放ち、見事にボールに命中させると矢は井戸の底から水面へと突き上がった。彼はその矢を引いて、井戸からボールを取り出した。
王子たちは皆、驚きあまって踊り出した。続いてそのバラモンは、自分の指輪を井戸に落とし、先ほどと同じ手法でそれも引き上げてみせると、子供たちは大いに驚いた。彼らはそのバラモンを、祖父であるビーシュマ・ピーターマハ(大祖父ビーシュマ)のもとへと案内した。
ビーシュマは彼を一目見るなり、その正体を見抜いた。彼は単なる普通のバラモンではなく、アーチャリヤ・ドローナ(आचार्य द्रोण )だったのだ。(*アーチャリヤとは〝師〟)
ビーシュマは、王子たちの教育を彼に一任することに決めた。
アーチャリヤ・ドローナは、大聖仙バラドヴァージャ(भरद्वाज)の息子であり、父のもとでヴェーダやヴェーダーンタ、そして弓術の教育を受けていた。ドローナチャリヤには息子が一人おり、その名はアシュワッターマー(अश्वत्थामा)である。こうしてドローナーチャリヤのもとで、王子たちの本格的な教育が始まった。
ある日、師は弟子たちに新しい教えを授けた。
「怒ってはならない。常に真実を語りなさい」というものであった。
数日後、師は弟子たちにその教えを復唱させてみました。他の王子たちは皆、一言一句正確に復唱することができた。
しかし、ユディシュティラだけが、その教えをすべて覚えていなかった。師は彼を厳しく叱責した。
「他の子供たちは皆、その短い教えを正確に言えたというのに、お前ときたら、それを覚えることさえできなかったのか!」
「アチャリヤ・ジー!確かに、教訓の前半部分『怒りを抱いてはならない』は覚えております。しかし、後半部分『常に真実を語るべきである』については、もし私が生涯を通してこの教訓を真に心に刻み込むことができれば、私は真に恵まれた者とみなします。」
ユディシュティラが師の前で答えられなかったのは、言葉として覚えていなかったからではなく、まだ完全に実践できていなかったからである。
彼の理解では、教えを「知っている」と言えるのは、それを完全に体現できた時だ。
他の王子たちは言葉を覚えたが、ユディシュティラは意味に忠実であろうとした 。「常に真実を語れ」という教えそのものを守るために、「覚えました」という嘘をつけなかった。
ドローナが叱責したのは、表面的には不出来に見えたからであったが、実はユディシュティラこそが教えの真髄を最も深く理解していた、というのがこの話の核心である。後に彼が「ダルマラージャ(法の王)」と呼ばれ、生涯、真実の教訓を実践した人物になることの、一つの伏線とも読める。
修行の期間が終わり、いよいよ試験の時が訪れた。師ドローナ・アーチャリヤは、木の高い枝に鳥の模型を括り付け、王子たちにその「目」を射抜くよう命じた。
最初に試験に臨んだのはユディシュティラであった。彼が弓を構えて立ち尽くしていると、師ドローナは彼に問いかけた。
「息子、ユディシュティラ。お前には何が見えているのだ?」
ユディシュティラは答えた。
「師よ!私には木が見えます。幹も、小枝も、鳥そのものも、そしてその目も見えています。」
するとドローナ師は言った。
「ユディシュティラよ、弓を収めなさい。お前は的を外すだろう。」
同様にして、ドローナチャリヤは他のすべての王子たちも一人ずつ呼び出し、的を狙わせた。そして全員に同じ質問を投げかけた。
「お前には何が見えているのだ?」すると、誰もがユディシュティラと同じ答えを返した。ついにアルジュナの番がやってきた。
師はアルジュナにも同じ質問をした。アルジュナは的をじっと見据え、こう答えた。
「師よ!私には鳥の目しか見えておりません。他には何も見えません。」
ドローナ師は大いに喜んだ。そして言った。
「見事だ!そのまま的を射よ。」
アルジュナの弓が弦を放った。その次の瞬間、鳥の模型は地上へと落下した。
王子たちへの教えを説きながら、師はこう語った。
「弟子たちよ。もし真の的を射抜きたいと願うならば、ただその『的』だけに目を向けなさい。いかなる物事を成し遂げようとする時も、その『目的(的)』だけに全神経を集中させることだ。そうして初めて、成功を手にすることができるのだ。」
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